本日は落語鑑賞記です。
平成二十九年六月四日、日曜日、「桂米朝一門会」、丸亀市綾歌総合文化会館(アイレックス)、全席指定前売3500円、開場十三時半、開演十四時。
若手からベテランまで総勢六名の、上方は米朝一門の落語家さんが集結。
温かな笑いを届けてくれる。
朝日新聞社主催。
今回は綾歌での公演なので車で行くことに。
実家から会場までは車でちょうど三十分の距離。
着くとすでに駐車場はいっぱいになりかけている。
が若干の余裕がまだあるみたいだったので入り口から遠い奥の空間に辛うじてとめることができた。
席は真ん中よりやや後ろの左中央といったところ。
全体をゆったりと見渡せるいい席だ。
定刻通り十四時開演。
開幕を知らせる寄席囃子が耳に心地いい。
塩鯛さんのお弟子さんだそうだ。
ということは米朝師匠の孫弟子になるのだろうか。
噺の内容は、お世辞を言うことを覚えて何とか酒食にタダでありつこうと考える間抜けな男の噺。
落語ではよくあるパターンの噺だ。
勢いはあるのだが、頭の回転の足らない男の描写が笑いを誘う。
お世辞を言うつもりが悪口になっていたりと、とにかく頓珍漢。
二番手は桂吉弥さん。
実力のある人だ。
二番手に座らせているのがもったいないくらい。
演題は「時うどん」。
何回も聞いたことのある古典の名作だが、うどんを食す時の緻密な描写に裏打ちされた所作の魅力で見せる。
有名過ぎるこの古典の名作を一味違う味付けで料理していた。
合気道などでも、初心者がやる技をベテランがやるとその技の効きの強さに唖然とすることがあるが、吉弥さんの今日の噺の出来もそんな感じ。
絶妙の間と所作の上手さで爆笑を取っていた。
ただ少し気になったのは、吉弥さんの感性の鋭すぎるところ。
仏教で言うとやや天台寄りの感覚というべきものが前面に出ていて、笑いに尖がった所があり、観客を力でねじ伏せようとするきらいがある。
円熟味などという言葉がある通り、もう少し年齢を重ねて丸みが出てくると、この人の魅力はもっと増して行くのではないかとそう思った。
後から出てくる南光さんのお弟子さんらしい。
筆者は初めて聞く落語家さん。
楽しみだ。
噺は、見世物興業の移動動物園で、目玉の虎が病気でいなくなったことから始まる。
その代わりがすぐに見つからないので、興行主が一計を案じて虎の毛皮の中に人を入れて虎に仕立てようとする。
その役を仰せつかったのが、主人公の間抜けな男。
一日一万円で虎になる。
これだけでも十分に面白いが、その後、虎に成りきるための所作などを通じて笑いを取って行く。
そしてここでは詳しく言えないがオチがまた傑作なのである。
南天さんは噺のテンポが良く、師匠譲りの軽快さと勢いがあって、とても実力のある方とお見受けしました。
前半最後は、待っていました、桂南光さん。
短めの枕から本格的な噺へと入って行くその中身とは。
所は小田原の宿場町。
身なりが汚く誰も泊めたがらない客が一人いた。
しかし、これも誰も客のいないさびれた一軒の宿屋がその男を泊めることに。
が、案の定、文無しで支払に困ったその男が宿代の形見に描いた絵が実は稀にみる傑作で・・・。
これも古典落語ではよく見かける形の噺。
人情を基底にしながら、上方らしい軽快な笑いを合間合間に挟み込みながら、説教臭くなく、くどくならずに聞かせてくれるその手腕はやはり見事。
中トリにふさわしい大作だった。
南光さんは何回も見させて頂いているが、本当に噺が上手。
毎年見ているこの米朝一門会、いつも南光さんが出てくるのを楽しみにしているのである。
そして後半。
前半は四人だったが、後半はベテラン二人が務める。
まずは桂雀三郎さんから。
実は雀三郎さん、「♪ 焼肉バイキングで食べ放題、食べ放題、ヨーロレイヒー」というCMソングを歌っていた人。
そのレコードはなんと十五万枚を売り上げたらしい。
すごいですね。
今日の噺は昔のお医者さんの噺。
という訳で枕でもお医者さんの話題に。
なんでも医者が使う便利な言葉というのが三つあるそうで、一つは「もう寿命ですな。」、二つ目は「もう手遅れです。」、三つ目はちょっと毛色が違って、どんな病気でも「では葛根湯を」というもの。
たしかに医学の進歩によって、ある程度は病人の寿命を永らえさせることができるようになった。
しかし、それでも人の生き死にを決めるのは医者ではなく、仏様や神様の仕事。
寿命かどうかの見極めというのは本当に難しい。
医者の仕事の大変さを思う。
そしてやはりどんなに科学が進歩しても変わることのない神仏の偉大さも。
色んなことを考えさせてくれる枕の内容だった。
噺の本題の方は、ヤブ医者の道中記。
これがまた傑作で、余計なことを考えないで腹の底から笑えるいわゆるバカ噺。
テンポや間合いがいいので思わず大笑いしてしまいました。
ありがとう雀三郎さん。
最後、大トリを取ったのは月亭八方さん。
釣りに行ったある老人が、その河原の叢に転がっていたどくろを見つけて、不憫に思いねんごろに弔ってやった。
するとその晩、目の覚めるような美人で妙齢の若い女性が老人の元へと訪ねてきた。
その様子を逐一眺めていた隣に住む間抜けな男が、そんな美人が訪ねてくるのならと、老人を真似して釣りに行くことに。
そして、同じように叢でどくろをねんごろに弔ってやるのだが・・・。
八方さんの噺は、声のハリが素晴らしく、全体にメリハリが効いていて、鮮やかな高コントラストの名作活劇を見るかのよう。
途中、興の乗った主人公の男が、鼻歌を歌う場面などは、お調子者の軽薄さ、馬鹿さ加減がよく出ていて秀逸だった。
やはり芸事の基本は「遊び」にあるのだなと改めて。
八方さんがこれまでの芸人人生で積み重ねてこられたであろう色んな「遊び」や芸の素養がたっぷり詰まった一席でした。
いやあそれにしても、でもどれもこれも面白かったなあ。
ここまで休憩を入れて二時間半。
たっぷりと笑った大満足の落語会でした。
最高の笑いを提供してくれた、桂米朝一門会の皆さんにありがとう。
その笑いを陰で支えてくれた綾歌総合文化会館の皆さんにありがとう。
チケットを家まで届けてくれた朝日新聞の販売員さんにありがとう。
主催の朝日新聞社の皆さんにありがとう。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。