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Channel: 文芸 多度津 弘濱書院
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絵本のひきだし 林明子原画展

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本日は展覧会評です。

イメージ 1
2017.5.14 日曜日、高松市美術館、「絵本のひきだし 林明子原画展」、会期2017.4.15土曜から5.28日曜まで。
開館時間、朝九時三十分から十七時、入室は閉館三十分前まで、月曜休館、一般入場料千円。

イメージ 2まずは電車で高松へ。
八時三十九分発の普通列車。
途中、坂出駅でマリンライナーに乗り換える。
そっちの方が高松到着が早いらしい。
九時十八分、高松着。
駅からは歩いて美術館まで。
十五分ほど。

それではここで、林明子さんの略歴を。
1945年、東京生まれ、横浜国立大学卒業。
1976年、初めての物語絵本「はじめてのおつかい」。
イメージ 3その後、「きょうはなんのひ」、「こんとあき」、「おふろだいすき」、「はっぱのおうち」など。
1983年、サンケイ児童出版文化芸術賞。
1989年、講談社出版文化賞。

九時半過ぎ、美術館に入る。
早速二階の会場へと。
入ってまず目を奪われるのは「原画」の美しさ。
これらの絵は全て印刷して鑑賞されることを前提とした絵なのだろうけど、原画はやはり美しい。
近づいて見るとそのあまりもの美しさにはっとする。

イメージ 4
そして改めて感じたのは、林さんは本当に絵の上手い人なんだなということ。
筆者は絵のことは素人で専門的なことは分からないのだが、基本的な技量がとてもしっかりとしていて、その水準が大変に高いという印象を受けた次第。
久しぶりに本当に上手い絵を見たなという感じがした。

絵本作家といっても、林さんの場合はもっばら絵を描くのみのよう。
物語は別の作家さんが構成して、林さんの絵と共同制作する形となっている。
その林さんが物語まで手掛けた作品が果たしてあるのかどうか、興味あるところだが。

イメージ 5と思っていたら、ありましたよ、展覧会の後半部分に林さんが物語まで手掛けた絵本の数々が。
「はじめてのキャンプ」と「こんとあき」、「まほうのえのぐ」がそれ。

「こんとあき」は古くなったぬいぐるみを修繕してくれる所を探して少女が旅する物語。
林さんのあたたかい絵が浸みてくる秀作。
背景の処理、主要な人物の造形、ホント上手いな。
そして物語に合わせて選択されているであろう全体の色調。
心安らぐ色合い。
ほんの少し甘くて切なくて。

話は変わるが、林さんは絵を描くにあたっては、自分で撮りためた写真を参考にして描いているそう。
特に主人公となる子供の造形は、甥っ子や姪っ子にモデルになってもらって、衣装なんかも必要とあらば自作したりして、それを着てもらって様々なポーズをとってもらって撮影をするらしい。
そうやって、あの素晴らしい作品が出来てくるわけなんだな。

イメージ 6ちなみに作品中に出てくるぬいぐるみなんかも描く前に自分で自作するらしいです。
そんな自作されたぬいぐるみが会場にも展示してありました。
器用な人なんですね。

それでは、ここから展覧会で特に筆者の記憶に残った作品を。
その前に、林さんのイラスト画像を上の文章のところから付けていますが、これは文中に出てくる作品とは必ずしも一致していません。
あらかじめお断りしておきます。

「かみひこうき」、1973。
黄土色の渋い背景に、きれいに折られて完成したかみひこうきの数々。
描写されたかみひこうきの立体感が素晴らしい。
そして背景に落ちてゆくかみひこうきが織り成す影の美しさ。

イメージ 7「はじめてのおつかい」、1976。
様々にアングルを変えながら、背景も変えて描写される五歳の女の子のおつかいの様子。
細部まで美しく描き込まれた街や商店の描写は素晴らしい。
そしてまるで映画でも見ているように変化するアングルは、上から下から横からと流れる映像のよう。

林さんの絵は背景までちゃんと計算し尽くされた細密な描写が素晴らしいのだが、不思議なことには上手すぎる絵にありがちなきゅうきゅうとした窮屈感がほとんどない。
とても上手いのに全体の調子はとても柔らかい。
そして見ていると上手さをほとんど感じさせない。
つまり押しつけがましさがまるでないのである。
これはとても稀有なことだと思う。

イメージ 8「きょうはなんのひ」、1979。
普通の家の何とも言えない温かい描写。
昔、こんな家に住んでたよなあと懐かしさが込み上げてくる生活感溢れる家族と家の絵。

「おふろだいすき」、1982。
夢が広がるファンタジー。
おふろと動物といういかにも子供が好みそうな題材をとって描かれた絵が郷愁を誘う。

「北海道の牧場で」、1979ではドイツの版画家デューラーの細密な銅版画を思い起こさせるような白黒の細密画を。
ちなみに林さんのは銅版画ではなくペン画らしい。
驚くべき技術の高さ。

イメージ 9そして最後は最新作の「ひよこさん」、2013。
まず目に付くのは色の描写の素晴らしさ。
そして何より、近作となっても全く衰えを感じさせない作画の素晴らしさ。
わざとゆるい感じで描かれたそのゆるみ具合が絶妙な作品なのだ。

さて、ここまで駆け足で展覧会を紹介してきたが、全体の印象として最後に一言。
イメージ 10やはり絵の上手さ。
この展覧会の魅力はそれに尽きると思う。
そしてここでも画像を通して皆さんに林さんの絵を紹介してきたのだが、正直、原画に比べるとこの画像の絵というのはかなり落ちると思う。

筆者が生で観た感じからするとパソコンでの画像の絵というのはだいぶレベルが下がっているように思う。
もちろん林さんの絵の素晴らしさを端的に紹介するのには画像も有効なのだが。
ちなみに、お土産に絵葉書も買ったのだが、それでさえ生の絵の感動に比べると若干落ちるのである。
だから、皆さんには是非現場に足を運んでいただいて、その絵の素晴らしさを堪能してもらいたいと思う。
それにしても、感謝、感激、感動の渦巻く大満足の一時間半でした。


素晴らしい、絵を描いてくれた林明子さんに感謝。
その絵を展示してくれた高松市美術館並びに関係者の皆さんに感謝。
安全運行に務めてくれたJRの皆さんに感謝。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。

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