Quantcast
Channel: 文芸 多度津 弘濱書院
Viewing all articles
Browse latest Browse all 149

天下り問題から見えてくること

$
0
0
最近、文科省の天下り問題が話題となっている。
そこで思うところを少し。

まず天下り問題の是非についてだが、現役を引退した人がその後も働き続けるということに関して言えば、筆者は賛成である。
現在定年は六十歳だったか六十五歳だったか。
人生八十年時代において、これはいかにも早すぎる引退と言えるのではないか。
実際、他の職業においても、六十歳くらいが一番仕事の技術が熟すころで、しかも実際には体力の衰えは多少あるもののまだまだ若く、体力と知力のバランスが一番取れているのがこのくらいの年齢なのだそう。
ましてや、官僚経験者ともなれば優秀な人材が揃っているらしいのだからこれを上手に活用しない手はない。
それなのに時が来たからと勝手に引退に追い込んで、遊ばせておくのは社会にとっても大きな損失と言える。

では現在行われている天下り、それはどこが問題なのだろう。
これは筆者の独断だが、一つは天下り先の受け入れ企業が官界と癒着する構図になっていること。
つまり、そのために官僚出身者が使われているということである。
もう一つは、官僚出身者が天下る場合、何故か会社役員とか大学教授とかいういわゆる「かっこいい」職業ばかりに転職し、給料も不当に高いということだろう。

一つ目の官界と産業界の癒着の問題だが、受け入れる企業からすると、はっきり言ってそれが一番の望みだという点に一番の問題がある。
官僚出身者を使う理由として役所との太いパイプこそが受け入れる会社にとっての最大の商品価値なのである。
従ってこれを規制することは難しいと言えるだろう。
どこまでがセーフでどこまでがアウトなのか、判断はとても難しい。
ましてやそれを法律化するとなると困難度はさらに増す。

だけどその難しい問題をあえてやるのが政治の仕事と言えるかもしれない。
もしやるとするならば、現場の意見をよく聴いてその声を丹念にすくい上げるより他に方法はないであろう。
どんな職業でもそうだが、肝心の情報と言うのは現場にしかないものなのである。
角を矯めて牛を殺すような規制が勝ち過ぎる内容になると、それはそれで「使えない法律」となって問題だし、逆に規制が甘すぎても抜け道だらけになって極めて危険である。
そこら辺りのさじ加減と言うのは現場経験者によく話を聞いてみて実際の仕事を見ながらその勘所を掴むしかない。

しかし、これは例えて言うなら、自衛隊の武器使用および戦闘行為の規制と同じで、どこまでがOKでどこからが駄目なのか実質的な線引きが不可能と言うのによく似ている。
軍隊の戦闘行為と言うのも、現場において、想定されている法律の状況に必ずしも当てはまらないグレーゾーンと言うのがほとんどである。
だからと言って法律の条文を具体例に沿って次から次へと追加して行って、結果、法律の量が本一冊分くらいになってしまうと、実際には誰も読まない空文となってしまうだろう。

ここにおいて政治の知恵と言うのが試される訳である。
しかし言うは易しで、正直言うとこの問題に関しては筆者にはどういう法律が正確な答えなのかが全く分からない。
だけど避けて通れない問題ならまずはやってみるところから始まるのではないか。
最初から完璧な解は出せないかもしれない。
しかし、経験を積み重ねて行くことで細かい修正を経て、その結果いい法律となって行くのを期待するしかないだろうと思うがどうだろう。
やっぱり無理なのだろうか、それともちゃんと答えはあるのか。
政治の仕事の一番深い部分がそこにはあるように思う。

次に、かっこ良すぎる職業ばかりに就くことと、高給すぎるという問題について。
官僚という職業柄、やはり企業役員とか大学教授という職業と親和性が高いということはよく分かる。
どちらも、官僚出身者の過去の経験が生きる仕事だからだ。

話は変わるが、ウチの父が勤めていた会社では、定年退職したある人が再び会社に戻って工場長になったそうである。
しかし、その人がふるっていたのは、月給十万円の工場長だったということ。
つまり一旦会社を辞めて再雇用する時に、給料がぐんと下がったらしいのである。
それで、自らは月給十万円の工場長と宣伝していたらしい。

これは社会に対して、一個人が前衛の働きをしているいい例だと思う。
働き過ぎでしかもたっぷりと残業代などをつけて高給を取る。
そういう時代がもはや終わろうとしている時に、対社会という点においてそれを善導してゆく「前衛」として、残業なし、休日たっぷりでしかも月給十万円の工場長は存在する。

ちなみにウチの父も再雇用で元いた会社に勤めていたが、給料はがくんと減っていたらしい。
現役時代、ウチの父親がいくら貰っていたのか私は知らないが、あの頃の平均では大手製造業のラインの仕事で年収600-700万くらいというからそれくらいは貰っていただろうと思う。
しかし今は日給一万円で働いている。
残業はなしで、しかも金曜日なんかは休みである。
土日は無論休みの上で。

やっぱりこれも前衛なのである。
必ずしも週四十時間の法定労働時間を順守するだけではなく、それよりも少なく働くのもアリだと言うことを社会に対して示している。
そしてそれに見合った少ない収入。
金だけが問題ではないのだ。
父の場合は、仕事をすることで毎日の生活にハリと潤いが満ちているように見える。
日々のささやかな生きがいのために働くのだから、高い収入も過酷に長い労働時間も必要ない。

官僚出身者もこれに見習って、最低賃金で働く大学教授とか、日給一万円の会社役員とか言うのをやってみたらどうか。
そんな「天下り」ならあまり文句を言う人もいなくなるかもしれない。

以前、筆者が所属している写真クラブの撮影会で一緒になったおじさんと話をしていたが、その人もやはり定年後働いている人で、聞いているとやはり年を取っても働ける環境があるのはありがたいということであった。
しかもその人も言っていたのは年を取ってからの仕事は金だけの問題ではないということだった。
まあ、何人もの人に聞いて回ったわけでもないのではっきりしたことは言えないが、現在の社会において「働きたい年寄」の需要と言うのは案外多いように思う。

筆者の会社でも引退した人が再雇用で勤めてきているが、その人は筆者が今使っている旋盤の機械のことについてなら会社で一番詳しくて、皆困ったことがあるとその人のところに寄って意見を聞きにくる。
つまり居てくれるだけで安心感がある訳である。
やはり、経験を積んだ人だけにその他の面においても仕事の能力は今でも十分に高い。
しかし、その人も毎日は来ない。
仕事の状況を見ながら、週に三、四日来るくらいである。
これもまた前衛である。

最後にかっこいい職業とは全く別の職業に就く可能性について。
今、全般的にどの職種も人手不足感が強いらしい。
中でも人手が足りないのが建設業という。
これから先、道路やトンネルといったインフラの維持管理というのが社会的に大変な問題となっていくなかで、この傾向には少し厳しいものがある。
そこで、思い切って引退官僚の皆さん、建設業の現場に出てみませんか、と提案してみたい。

自ら率先垂範することで国民に範を示す。
これぞまさに公僕としての務めではないでしょうか。
また、これには受け入れる先の建設業にとってもメリットがあることなのである。
どういうことかと言えば、一般に知的仕事ばかりしていて体力が欠けるというイメージの官僚出身者(ましてや年寄)を過酷な現場で使うことによって、そういう人達でも務まる職場の在り方と言うのを模索して行けるから。

高い給料と充実の福利厚生を布いて、その代わりに夏でも冬でもガンガンに働いてもらうというビジネスモデルはもう古い。
人手不足を解消するには、現場のことがよく分からないずぶの素人にも興味を持ってもらうことが必須である。
素人でも、体力のない人でも持続可能な務まる職場。
そういう「人に優しい職場」の創設を、年を取った官僚出身者を使うことで、会社側は模索してゆくのである。
そしてそれが上手く行けば、「年寄の官僚出身者でも十分に務まる職場」と大々的に宣伝すればいい。
「元官僚の使い方」にはこういうのもあるというところをしっかりと見せてもらえれば、それは我々国民にとっても大きな財産となる。

以前、本で読んだのだが、知的障碍者を積極的に雇っている職場で、健常者には難なく出来る仕事でも障碍者には難しい仕事があって、それをどう克服するか考えて実践したところ、結果、その職場は障碍者だけに対してでなく健常者にとっても働きやすい「人に優しい職場」になったということである。
建設業も同じように、どんな人にも優しい働きやすい職場に生まれ変わることが今必要なのではないだろうか。

例えば、ずっと働き続けるのがしんどい人ならば、一時間おきに交代で働くとか、それもしんどいなら三十分おきに交代とか。
しかしその分、働き手の数を増やして対応する。
結果、給料はその分だけ安くすることも必要かもしれない。
他にも、現場にまつわる様々なノウハウを年寄を受け入れることで磨いていけばいいのではないかと思う。

幾つになっても働ける社会。
人に優しい無理のない職場。
休みたい時に無理なく休める職場。
そんな社会を目指して、私達も頑張ろうではないですか。
一億総活躍社会を謳いながら、その足元の官僚達が定年後、輝けないでいるのは問題ではなかろうか。
もちろんそれは、今の「天下り」のままでいいというのではない。
そうではなく、天下った人達を社会の「前衛」として、見上げつつその影を追いかけながら。


本日も最後まで読んでくれてありがとうございました。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 149

Trending Articles