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Channel: 文芸 多度津 弘濱書院
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落語 「林家菊丸独演会」

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本日は落語鑑賞記です。

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2016.1.24、日曜日、「林家菊丸独演会」、多度津町民会館リハーサル室、前売り一般1000円、全席自由、開場十三時、開演十三時半。

折しも十年に一度という大寒波が押し寄せてきていたこの日。
若干心配されていた天気の方だが、何とか大丈夫そう。
午前、午後通して大きな天候の崩れは無かった。
ただ、寒いのはホントに寒かったですけどね。

ここで今日の主役、林家菊丸さんについて簡単に紹介しておくとしよう。
よしもとクリエイティブエージェンシー所属、1974.7.16三重県生まれ。
なんと驚くなかれ、筆者より年下。
ガーン。

落語家さんと言えば、自分より年上というのが今までの相場だったのだけれど。
気付かない内にもうそんな時代になっていたのか。
と言うより、ただ単に私が歳を取っただけなのだろうが。
イカンイカン、少しは気合を入れ直さなければ。
このままじゃ、うかうかしておれませんぞ。

少し話がそれたが、元に戻すと。
菊丸さんは高校まで三重県で過ごされたそう。
そして大学は大阪産業大学で、そこを中退して1994年、四代目林家染丸師匠に入門。
余談だが、筆者が初めて見た大阪の天満天神繁昌亭の夜席でトリを取っておられたのが何を隠そう染丸師匠だった。
見えないところで何かの縁を感じる。

平成十六年、なにわ芸術祭落語部門新人奨励賞。
平成二十五年、大阪文化祭奨励賞。
平成二十六年、上方林家の由緒ある名跡「林家菊丸」を三代目として約百十五年ぶりに襲名。
平成二十七年、第十回繁昌亭大賞、おめでとうございます、つい最近新聞にも載ってました。
なかなかの実力者とお見受けいたしました。

十三時過ぎに会場に入る。
客席は全部で八十から九十席といったところ。
狭いリハーサル室は満員である。
十三時半過ぎ、寄席囃子が始まる。
太鼓と笛の音もにぎにぎしく、じつにいいもんです。

それがしばらく続いて、次いで三味の音色も艶やかな出囃子に乗って菊丸さん登場。
今回の独演会は前半と後半に分かれているそう。
でその前半は、まくらを長くしたような話から始まる。
まずは軽い小噺で客席を温めておこうという趣向だろう。

話の内容は地方回りなどで、ひどい仕事に会った時のこととか、素人さんの客相手に苦労した話とか。
いずれも実話か創作かは分からないものの、面白そうな話がずらりと並ぶ。
一つ紹介すると、大阪の中学生相手の公演での話。
マナーの悪い学校だったらしいが、菊丸さんが落語を始めても一向に生徒たちの私語が止まなかったそう。
そこで勇気を振り絞って、目の前でやかましくしている中学生に向かってこう言ったという。

「こうやって必死になって皆の前で落語をやるこの苦労が分かるか。」
それに対して中学生はこう返したという。
「だったら、こっちでこうやってオマエの落語を黙って聞かされているその苦悩が分かるか。」と
爆笑である。

その後、落語の色々なオチの種類を分析しながら、参考となる小噺をいくつか聞かせてくれたり。
あと、落語の情景描写の一例として、そこが大きな家か小さな家かを、声の張りや大小、間などで演じ分けたりすることも教えてくれたりした。
最後は落語の所作の紹介で、お馴染みのうどんのすすり方、扇子の使い方、てぬぐいの使い方を披露。
笑いながら学べる落語講座といった趣の前半だった。

十分の休憩の後、後半へ。
どんな噺が聞けるかわくわく。
まくらは名人上手の芸を面白おかしく語るところから始まる。
なるほど、ということは今日の噺は名人が出てくる噺ということか。

で、そのまくらだが、故米朝師匠の話をサカナに進んで行く。
昭和の名人米朝師匠の色々な失敗談を面白おかしく脚色した内容で、さすがの米朝師匠も形無しといったところ。
まあでも、米朝師匠も今日の話を聞きながら天国で笑っておられることだろう。
そんな噺をしながら、名人は間違えてもそれが間違いに見えないところが名人の名人たる所以だと独自の芸談が語られる。

そこから噺は、とある貧乏旅館の話に繋がって行く。
貧乏旅館の二階に住む得体のしれない客。
泊まってもう十日も経つのに一向に金を払う気配がない。
それを心配した旅館の女将が、亭主をけしかけて金の催促をするようしつこくせがむ。

なお、この旅館の女将を演ずる口跡に最初のところだけ、若干の違和感を感じた。
なんとなく、がめつく現実的な年増女の感じがもう一つ出ていないように思えたのである。
だが、ケチをつけるとこがあったとすればそこだけで、あとは一貫して上手な噺だったと思う。

そして客に金を要求しに行く亭主だが、聞くと客は金は持っていないという。
だが、裏山から竹を切り出してきてくれたらそれでお代の方は何とかなるという。
どういうことだかさっぱり事情が呑み込めない亭主。
それでも仕方ないので言われた通り、半信半疑のまま裏山から竹を持ってくる亭主。

するとその客は亭主が持ってきた竹を使って、おもちゃのような水仙の花を作り上げた。
でこれを旅館の前に出して売りなさいという。
冗談じゃない、こんなちゃちなおもちゃみたいな細工、誰が買うんだと憤る亭主。
それでもその客は泰然とした態度で、明日になればいい買い手がつくと言う。

そしてその旅館の前を熊本の殿様の一行が通りかかる。
旅館の前にある水仙の花がふと殿様の目にとまる。
何かを感じたのだろう、急いで部下にその細工物を買いに行かせる殿様。
随所に笑いを盛り込みながら進んできた噺はここからが最大の見せ場。

何気ない細工物が、目利きの殿様と出会うことで大金に化けて行く。
その価値を一目で見抜く殿様も立派なら、そのような目利きの存在を信じてただひたすら己の芸を磨き上げる職人も立派。
そして最後、その職人のおかげで大金を得ることのできた亭主がその職人の名前を聞き出すところで噺は終わる。

この噺を菊丸さんは、声の張りなども充分に登場人物も巧みに描き分けて立派な口演とした。
聞いていて退屈するところがなく、噺の世界にスーッと引き込まれていった。
充実の高座、充実の三十分。

最後に菊丸さんに一言。
噺も上手であまり文句のつけどころがなかったのだが、今はまだ力強さの残る壮年の美という印象。
これから歳を重ねるにつれ、力は衰え、そしてそれに代わるように味というのを出していかなければならなくなるだろう。
いまはまだ少し尖った部分もあり、力と技の均衡が魅力だが、あと二十年くらい経って、六十代くらいになった時が本当の勝負だろう。
受ける受けないなど関係なく、だんだんとそのような意識が鈍くなってくるのを逆手にとって、肩の力の抜けた独特の軽みのある境地を目指してみるのも一興だろう。

今はまだ鋭すぎる部分がある。
その角が取れて丸くなって行くのを楽しめるかどうか。
段々と感覚が鈍くなってゆくのを楽しめるかどうか。
それが今より上に行くための唯一の道だと思う。
そういう意味で菊丸さんの今後に期待。
二十年後が愉しみです。
頑張って下さい。


最高の落語を聞かせてくれた菊丸さんに感謝。
その落語会を陰で支えてくれた多度津町民会館の関係者の皆さんに感謝。
今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。

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