本日は瀬戸芸、秋会期開催の模様を。
天気、晴れ、少し風が強い。
多度津港から九時五分発の高見島行きフェリーに乗る予定。
家を八時二十分頃に出る。
そのまま自転車で多度津港へ。
港に着くとすでに大勢の人が並んでいる。
往復切符、940円を買ってその列に並ぶ。
舟の定員は百五十名らしい。
が、もし乗れなくとも、隣に係留してある臨時便を出すから大丈夫と係の人が言っていた。
大盛況である。
定刻九時五分、船が出発。
そのあと、臨時便も出た模様。
筆者が乗った船はまだ新しく造られたばかりらしい。
平成二十七年十二月進水となっている。
きれいな船だ。
約三十分ほど船に揺られての海の旅。
船はけっこう速度が出る。
琴平の大麻山を奥に見て、善通寺の五岳山や多度津の天霧山、それに白方の山々や多度津山がそれぞれに連なってきれいに見える。
なんと美しい眺めかとうっとりしてしまう。
普段、あんな美しいところに住んでいたのかと改めて。
視点が変わるとこんなにも見えるものが違うとは。
新鮮な驚きである。
これも芸術の内に入る効能の一つなのだろうか。
九時半、高見島到着。
展示は十時からだそう。
まだ時間があるので、とりあえず港周辺をぶらぶら。
きちんと束ねられながらも無造作に置かれたタコツボの塊。
何だ、タコツボを置いてあるだけじゃないか、とツッコんではいけません。
筆者の写真と同じですね、撮っているだけ、あはは。
しかしまあ、置いてある方としては、何気ない置き方とかその位置とか角度やバランスを総合的に勘案して置いてあるのだろう。
芸術となるととりあえず難しく考えがちだが、分からないなら分からないなりに、いちいちツッコみを入れながら眺めて回るのも楽しいのかもしれない。
思ったこと、感じたことをそのままに留め置きながら、ゆるく軽口を叩きながら眺めるくらいでちょうどいい。
さらにそこから港を西に進み、お墓のある所まで行ってしばらく拝んでから引き返す。
十時が来たので観覧を開始する。
最初に行ったのは「時のふる家」。
おそらくは廃墟であろう。
そこに壁の外から透明なアクリルの板をぶち込んである。
中に入ると真っ暗で、その透明なアクリル板だけが妖しく光っているという趣向。
文句なしに美しい作品、下の写真。
中には金属製の家電のゴミなんかも混ざっていたりして、密かに現代社会に対する風刺ともなっている模様。
なかなか面白い。
それから島の大通りである、坂道を登って行く。
けっこうきつい坂なので足に不安のある方は要注意だろう。
無事、登り終えると新たな作品が私達を待っている。
ここは、一度に大勢の人が入れないようなので、入るのに十五分くらい待った。
この家は昔、アメリカ西部の開拓などに従事して大儲けをした人が帰ってきて建てた家だそう。
今は空き家となっている。
その二階を利用して作品は作られている。
昔の家によくある、狭くて急な階段を昇ると別世界が私達を待っている。
海を渡って成功した家主、海なしでは生きて行けない島の暮らし、海と人とにまつわる様々な思いが交錯した表現なのだろう。
なおその海を模した白い模様は、現地で採れた塩を使ってそれを固めて作られているとのこと。
なるほどねえ。
なお、ここにはこの作品とともに、家の庭にレストランも併設されている。
こちらはぐっと趣を変えて、洋風の洒落た造り。
皆、思い思いに食事や喫茶を楽しんでいるようだ。
ちなみに、作品観覧のための待ち時間の間にガイドさんの話を立ち聞きしたのだが、ここの料理、特にパスタなどは、プロの指導を受けて作られたもので大変に美味とのこと。
秋会期に向けての準備中、ガイドさんなどに試食品が出されたそうだが、こんな美味いもんタダで食わせてもらっていいのかというくらい美味しかったそう。
興味ある人は一度食べてみるといいだろう。
どちらも前回の瀬戸芸で作られた作品だ。
大変に出来のよかった作品なので今回まで残っていたということだろう。
「うつりかわりの家」は、廃墟の壁に無数の小さな穴が開けられていてそこに長いガラスの管が通されている。
先に紹介した「時のふる家」を作った作家さんと同じ人が三年前に作ったもの。
中に入ると真っ暗で、そこに差し込む無数の小さな光はまるで夜空に浮かぶ星々を見ているかのよう。
この作家さんは光と影を上手く使った表現が得意のようだ。
かわって「除虫菊の家」は、二階に上ると低い天井の下に、小さな蚊取り線香を集めて巨大な渦巻きに模した大きな蚊取り線香がちりちりと燃えているというもの。
三年振りに見るが、ほの暗い室内に浮かぶ蚊取り線香は趣があって実にいい。
その後、帰り道、島のお寺「大聖寺」の手前の休憩所でお茶を頂く。
おじさんとおばさんがやっている小さな休憩所で無料でお茶が頂ける。
何ということもない会話で駄弁りながら一休み。
何ともありがたい。
島の人達の人情がしみるじゃないか。
もちろんこれも無料。
感謝感謝。
この茶粥、島の名産である「ロッケシ」という薬草を使って出したお茶で作られているそう。
粥と言っても、どちらかというとお茶漬けみたいな感じで、とてもさらさらとしていてさっぱりと頂ける。
茶粥自体には、これという味は付いていないので、付け合せの漬物を上手に使って美味しく食べるのがコツみたい。
とくに梅干しが美味しかった。
あんまり辛すぎない高級そうな大きな梅干し。
ごちそうさまでした。
茶粥を食べ終わると大体十一時半くらい。
あわてて港に戻るが、十一時三十五分の船は出たばかり。
次は十五時五十分までないかと思っていたら、なんと十四時十分の臨時便が出るとのこと。
というわけで、とりあえず港の近くにあった島の公民館、無料休憩所として開放されている、で持ってきた弁当を食べる。
ああ、なんか贅沢だなあ。
そしてその後、作品以外の島そのものをゆっくりと散策してなんとなく時間を潰す。
随分と日和ったものである。
だけど、島で時間が余ってぼうっとベンチに座っていると久しぶりに何もしない贅沢というのに触れられたような気がした。
こういうのも含めて、「芸術」なんだなあ、と。
最高の一日でした。
円滑な旅を演出してくれた瀬戸芸ボランティアスタッフの皆さんに感謝。
最高の作品を見せてくれた芸術家の皆さんに感謝。
島の人情を感じさせてくれたお接待の皆さんに感謝。
大聖寺さんに感謝。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。