本日は新春恒例の伝統工芸展の模様を。
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2016.1.3 日曜日、「第六十二回 日本伝統工芸展 高松」、香川県立ミュージアム、会期、一月二日 土曜日から一月十七日 日曜日まで、会期中無休、九時から十七時まで、入場料一般、610円。
まずは電車で高松へ、八時五十八分発の快速サンポート号。
九時三十六分高松着。
今年は列車を例年より一つ早い便にしてみた。
と言うのも、いつも会場を一通り見て、その感想をブログ用に原稿に書いているとけっこうな時間になるものなので。
車窓から見る朝の讃岐路は少し霞んで見える。
それを切り裂くように走る電車。
きれいだな。
やっぱり正月。
そして高松到着。
駅から県立ミュージアムまでは歩いて十五分ほど。
途中、玉藻公園が正月三が日の無料開放中だったので寄って行くことに。
たしか去年もそうだったような。
それはともかく、にわか殿様気分で公園の中を散歩する。
お城と言えばやはり松だが、やっぱりここの松も素晴らしい。
特に入り口のところにあった松などは独特の枝垂れた風情が得も言われぬ美しさを醸し出している。
また、被雲閣の辺りには今が見ごろの椿の姿も。
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そして展覧会。
今年はどんな作品と出会えるだろうか。
期待に胸が高鳴る。
まずは漆芸から見てゆくことにしよう。
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最初に総論から述べると、全般的に優れた作品が多く今年もレベルが高い。
それと今年は高松在住の作家さんの作品が少なかったのだが、県の漆芸研究所出身者の作品が多く選に入っていたのも特徴。
香川で育った人が全国に散ってそこで活躍しているという状況。
それはそれで喜ばしいことだ。
冒頭、入り口のところに地元香川の誇る漆芸の人間国宝お三方による作品の競演が展示されているのも興味深い。
まず、左の写真、それから下にこれから展示する二枚の写真が人間国宝三人による作品の写真です。
どれも素晴らしい作品でこういうのを見ていると何だか元気がもらえる。
レベルこそ違えど、よし俺もという気になる訳である。
今年も色々と気になる作品はあったのだが、その中でも注目してみたいのは、あたかも写真による作品のような鮮やかな具象表現を見せた作品二点。
どちらも石川県の作家さんの作品だ。
なお、この二作の写真は色々探したのだが無かったので、その点はご了承願いたい。
まず一つ目は蒔絵箱、「月光の道」、鬼平 慶司。
石川県輪島塗特有の吸い込まれそうな黒無地と思いきや、単なる黒ではない濃い青との境のような独特の色彩の中に、妖艶さを秘めた満月を箱の天面に配置してある。
そしてそこから連なる前面側面の部分には黄金色に光る月明かりが暗い海を照らすという構図になっている。
海への月明かりの反射も美しい。
まるで上質の写真を見るかのような優れた作品である。
もう一つは、同じく蒔絵箱、「漁り火」、寺西 松太。
こちらは夜の海を象った漆黒を思わせる重厚な黒の中に、遠近に浮かぶ漁り火を黄金で表現した作品。
漁り火は金による点描でその海面への反射も美しく表されている。
水平線は漁り火による明かりでほんのりと明るくなっており、分かるか分からないかのぎりぎりのところで金による淡い装飾が施されている。
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この作品もまた写真のよう。
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この二作品は、どちらも優れて写真的な描写が際立っているが、本物の写真なら、背景となる黒の階調の中に余分な風景を拾ってしまう可能性もあるだろうが、そこは写真と絵画の違い。
作品の中では余分な描写はそぎ落とされて、情景を端的に表す描写の本質だけが抽出される格好となっている。
極度に単純化され、ある意味抽象的ですらあるとも言える具象。
そしてそれがたまらなく美しい。
実にお見事な二作品であった。
さらに漆芸からもう一点。
これも写真はありません、あしからず。
籃胎蒟醬八角箱、「青葉錦」、神垣 夏子、東京練馬。
香川県の漆芸研究所の出身者。
黒い背景に蒟醬独特の赤と黄色の細かい線状の地模様が施され、中央に鮮やかに緑の青葉が表現されている。
その枝葉の緑の色が秀逸で、ホントに初夏の頃の新緑のあの美しい色がそのまま表現されているのである。
今回、この色とこの表現に出会えたのは思わぬ収穫だった。
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続いて陶芸。
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「銀泥彩磁鉢」、井戸川 豊、千葉県我孫子市。
左の写真がそれ。
大振りの深い鉢に輝くようなプラチナ色の白の背景。
そして鉢の底に描かれたかいわれ大根。
うっすらと線描が施されたプラチナの中に鮮やかに浮かび上がるかいわれ大根の意匠。
そのうっすらとぼやけた感じで描写されるかいわれの緑が鮮やかだ。
しかしそれにしても、今年の陶芸は当たり年のようで、全体的に優れた作品が例年にも増して多い気がした。
とにかく入選作のそれぞれが独自の趣向を凝らしていて、伝統の中に新しい息吹を吹き込んでいるのである。
例えば、色の美しさで見せる作品、落ち着いた色合いながら独特の味と渋みで勝負する作品、変わった形に斬新な色彩で挑む作品など、見ていてとても面白かった。
陶芸からもう一点。
これも写真はありませんが。
彩釉壺、「冠雪」、田島 正仁、石川県小松市。
紫の濃く澄んで深みのある吸い込まれそうな色彩の中に、上部の少しくすんだ白が際立つ。
全体の形は涙型を少し丸めにしたような格好の大きな壺で、あたかも冬の富士を表したかのような「冠雪」の名にふさわしい秀作となっている。
色彩と形との優れた饗宴。
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着物から一点。
琉球紅入藍型着物「むるぶし浜」、城間 栄市、沖縄県那覇市。
琉球の紅型と言えば、独特の派手な色使いが頭の中に思い浮かぶが、この作品の色はかなり渋め。
が、沖縄らしさがないかと言えばそうでもなく、文様の一つ一つにかえって沖縄らしさが現れている。
沖縄の海の深い色合いを思わせる藍を基調にした作品はいつまでも眺めていたくなるような佳品。
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最後は木工から。
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この作品も写真はありません。
ちなみに、左の写真は漆芸の人間国宝の写真。
「栃造器」、中島 武仁、石川県加賀市。
栃の木の加工の際によく使われる独特の黒を基調に、器の真ん中に一筋、木目を見せるための色の淡い部分を配している。
この作品の特徴はとにかく、全体の形に対する鋭敏な感覚にあると思う。
見ているとくらくらと眩暈がして器の中に引き込まれそうになるような独特の緊張感を持った形態の美しさ。
まさにこれぞ木工といえる、一点の曇りもない見事な造形。
他にも人形や七宝、金工など見所は満載なのだが、それらを紹介する前に紙幅が尽きてしまった。
新春から安い値段で日本の美を堪能できる一時間半。
これらの作品を買って眺めようとするととてつもない値段になるのだろうが、ミュージアムで見るとかなりお安く見ることができる。
興味のある人は是非。
安全運行に務めてくれた鉄道関係者の皆さんに感謝。
最高の作品を見せてくれた作家さん達に感謝。
その作品を手頃な値段で見せてくれている展覧会関係者の皆さんに感謝。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。
新しい年が今年もまた始まりました。
去年に引き続き、筆者も出来る範囲で精進していきたいと思っていますので、今年もよろしくお願いします。