本日は書評です。
「赤城写真機診療所 MarkⅡ」、赤城耕一 著、玄光社、2018.8.1、税別1900円。
カメラに関するうんちく本が好きだ。
というのも、我々アマチュアカメラマンの場合、一生の内に手に入るカメラやレンズの数というのはたかが知れているから。
それは金銭的な問題もあるし置き場所の問題もあるだろう。
私は現在独身なのでわりと自由に使える金はある方だと思うのだが、それでも持っている機材の数はそれなりのものでしかない。
ましてや結婚している人なら、ちょっとしたものを買うのでもいちいち奥さんの顔色をうかがいながら購入を検討せざるを得ないわけで。
そこでなにかと役に立つのがこの手のうんちく本である。
買う際の参考になるのはもちろん、買わずに我慢するために読むだけ読んで所有欲をある程度満たすというかそらすことのできる、いわば代用満足の手段としてまさにうってつけと言えるから。
実際、読んでいるとそれだけで何だか楽しくて得した気分になれるのがこの手の本のいいところである。
ライカに関する本なら田中長徳さんなどが有名だが、広くカメラ一般、特に古いカメラやレンズに関する第一人者と言えば、この赤城さんではないだろうか。
例えは悪いが、昔、平安時代に在原業平という貴族のモテ男がいた。
なんとその生涯において交わった女性の数は3600人以上というからびっくり仰天だ。
一夫一妻制が広く敷衍された現代に生きている我々一般男性にとっては夢のような数字である。
現代で普通に生きている限り、付き合う女性の数がそこまで多くなることはまずない。
それと同じで数えきれないくらいの様々なカメラやレンズに囲まれて暮らす赤城さんというのは、カメラ界の在原業平と言えるのかもしれない。
だから、我々アマチュアカメラマンからすると夢の世界の住人なのだ、赤城さんは。
そんな人の書いた本だから面白くないわけがない。
この本は主治医である赤城さんが、悩めるアマチュアカメラマンの写真病にかかった患者を、丁寧に見立て病名を付け、それに応じた処方箋を出すというそういう体裁になっている。
病名は様々でこれがまた笑えるのである。
「カメラ欲しいよ病」から始まり、「レンズ内ゴミ恐怖症」やら「新型カメラ不感症」、「大口径鏡玉妄想病」、「古典撮影技法執着症」などなど。
カメラ好きならどれか一つ思い当たるフシがあると思う。
本書はそんなカメラ好きのための病院の第二弾。
何年か前に出た第一弾も面白かったなあ。
その第一弾の本は宇多津のツタヤでコーヒー一杯でタダで読み通したほどに面白かった。
第一弾はタダ読みしたのでそれが申し訳なくて第二弾は買って読むことにした。
その第二弾では新しく婦人科も併設され、初めての女性にも手に取って頂きやすくなったと書いてある。
しかしその言とは裏腹に、なぜか婦人科冒頭には女性ヌード写真がでかでかと掲載されてある。
あはは。
これじゃあ、かえって女の人は手に取りにくいよな。
しかしそのようないい加減さも本書の魅力の一つなのだ。
このアナーキーさがたまらない。
さて、それでは本文から気になったところを引用してみるとしよう。
「そもそも現実を冷静に分析してみましょう。
「カメラ」って私たちの生活に本当に必要なんですか?
どうです。あなたがお持ちのスマートフォンで事足りていません?
不要なものをあえて買う。
この強い意思を持った人こそ、当診療所の患者さまなわけです。
要らないものが欲しくなる「カメラ欲しいよ病」とは何なんのか考えてみましょう。」
そう。
本当にその通りである。
カメラ好きとは、写真を撮ることが好きなだけでなく、「カメラそのもの」もまた同じくらいに偏愛している人間のことなのだ。
しかし、基本的にカメラは生活に必要なものではないという指摘は鋭いものがある。
でもそうであるが故、余計愛着が湧くのであろう。
車好きが、一見すると無用の長物になりかねない、オープンスポーツクーペなどにハマるのと同じような感覚なのかもしれない。
最後にライカⅢaの扱い方について述べた文章から。
「この種のカメラをスナップショットで使う場合の操作の基本は「ピントを合わせない」ことなのです。
50mmで縦位置で全身が入るなら4m、横位置で上半身目一杯なら2mとか、距離指標を使って設定しておけば目測でピント合わせの時間は0秒となる。」
自ら、古典撮影技法執着症を名乗る赤城さん直伝のスナップ撮影の極意である。
昔の扱いにくいカメラを使っていた人達の知恵はやっぱりすごい。
ある意味、現代のオートフォーカスより速いのだから。
とまあ、こんな感じで硬軟織り交ぜながら、時にハッとさせさられ、また時にはためになり、そして時には腹を抱えて笑う。
そんな軽快な文章が盛り沢山の本書。
機会があればぜひ手に取って読んでみてほしい。
最高の本を書いてくれた赤城耕一さんに感謝。
その他、この本の製作に関わってくれたスタッフさんに感謝。
その本を出版してくれた玄光社さんに感謝。
売ってくれた宮脇書店さんに感謝。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。