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平田オリザ講演会

本日はワークショップと講演会の模様を。

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2016.3.21、月曜祝日、「平田オリザ講演会 変わりゆく日本語 変わらない日本語」、会場、多度津町民会館、全席自由一般、1000円、開場、十三時、開演、十三時半。
二部構成で、前半、十三時半から十五時は公開ワークショップ、後半十五時十五分から十六時四十五分が講演会となっている。

筆者は今回思い切ってワークショップに参加してみることにした。
ちなみにワークショップとは参加体験型の講座のことをいうらしい。
どんなことをするのか今から楽しみだ。

それではここで今日の主賓である平田オリザさんについて簡単な紹介を。
1962年東京生まれ、劇作家、演出家。
城崎国際アートセンター芸術監督、こまばアゴラ劇場芸術総監督、劇団「青年座」主宰。
東京芸大COI研究推進機構特任教授、大阪大学コミュニケーションセンター客員教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐。
著書に「幕が上がる」、ももクロ主演で2015年に映画化。
他に「転校生」など。

十三時過ぎ会場に入る。
客はまだまばら。
しかし今日、生まれて初めて舞台に上がる筆者。
ワークショップ参加の受付を済ませてから本番が始まるまで席に着いて待つ。
わはは、楽しみ楽しみ。

十三時半開演。
初めて上がる舞台は、結構まぶしい。
ははん、なるほどこんな感じなんだ。
いつもは客席側から眺めているだけの舞台、だが、こっち側から見るとこんなにも違う景色に見えるもんなんだな。
後、意外だったのは客席の一人一人の顔が割とはっきり見えるということ。
ということは筆者もこれまで舞台上から随分しっかりと見られていたんだろうな。

さて、そんな余韻に浸る間もなくワークショップ開始。
最初に出されたお題は、好きな色とか好きな果物とか、それを大声で皆の前に触れて回って、同じ物を叫んでいる人とグループになるというもの。
これはワークショップの形態としては初歩の初歩となるものらしく、小学校などでやる時によく使う遊びなのだそう。
筆者も大声で舞台上を叫びなが゛ら、仲間を作って行く。
簡単だが何だか楽しい。

そして合間合間に平田オリザさんから解説が入るのだが、中でも印象に残った話がこちら。
元々ワークショップとは欧米で生まれたものらしく、自己主張の強い欧米人がいかに集団での没個性での協力関係に邁進することができるかどうかが主眼だったそうだ。
しかし、日本では逆にいかに自己主張できるようになるかが、ワークショップの主題となるらしく、その点で主催者は苦労するとのこと。

中でも、中学生くらいの子を相手にする時が一番難しいのだそうで、あの手この手で思春期の子供の心を開かせることに腐心するらしい。
それで、同じ誕生月の子同士でグループを組ませたり、血液型別に分けたりと参加者同士の会話と感動が弾むような仕掛けを駆使してコミュニケーションのきっかけを用意するという。
大変だな。

次にカードを使った遊び。
カードに書かれた番号、一番から五十番まである、がランダムに渡されて、そして渡された個人はその番号が少ないほどおとなしい趣味を、逆に番号が多いほど激しい趣味を持っていることにする。
これは実際の自分の趣味とは何の関係もなく、ただ自分が想像する番号に合った趣味を架空でいいから持つことにする訳である。

そしてその番号は隠したまま、他の参加者と会話してみて、自分の趣味の番号と一番近そうな人と組みになる。
で、一番近い番号で組み合わさっていた人が勝ちとなる。
これがけっこう面白くて、一口におとなしい趣味、激しい趣味と言っても、人によって想像するおとなしさ、激しさの定義はそれぞれに違っている訳である。
そのことから、背後にあるイメージの共有の難しさを感じ取るゲームなのだ。

ちなみに筆者に回ってきた番号は三番、で盆栽の趣味ということにした。
それで色々な人と情報をやりとりしながら、最終的にある女の人と組みになったのだが、その女の人は十一番のカードだった。
八番違いである。
惜しいね。

次にキャッチボール。
最初はボール無しでやってみる。
次に実際のボールを手にしてやる。
そこで分かるのは、ボール無しでやると下半身を使わない上半身だけの動きになるということ。
またボール無しだと、上手く投げて上手く取れるだけのイメージで動いてしまうことも判明。
実際にボールがあると、球はどこに飛んで来るかわからない。
球は上にそれたり下にそれたり、それに落としてしまうこともある。
それが現実のキャッチボールだ。
演技の難しさというのはこういうところにあるのだろう。

そしてなわとび。
これも実際の縄を使わずに架空の動きでやる。
なわとびの場合、相手が日本人だと大体動きのイメージは共有されているので、回る大縄に合わせてそこに入って行くとという形を自然に取ることができる。
しかし過去、イスラムの女の人相手にこの遊びをやった時、その人はなわとびというのをそれまでの人生の中で一度もやったことがなかったらしく、回る大縄の演技の前にそのまま普通に歩いて入って行って横切ってしまったという。

この話から分かるのはイメージの共有というのが、実は異なる文化によってそれぞれ違っているものであるということ。
しかし、虚構の話を見せる演劇では、この客席とのイメージの共有と言うのが肝になるということだから話はややこしくなる。
で、実はそこにこそ演劇の難しさと面白さがあるという。

ワークショップはここまで。
十五分の休憩後、講演会へと。

先ほどのワークショップからの続きで、言葉とそれを支える背景の文脈について。
同じ言葉でも文化が変わると意味が変わる。
例えば、飛行機の中で見ず知らずの人と乗り合わせた時、声をかけるセリフがあったとする。
日本人なら、知らない人と話す習慣のない人が多数派だそうだから、そのセリフが入っている芝居を見ると主人公は積極的な人なんだというイメージとなる。
逆に知らない人と会うとまず初めに自分は安全な人間であると知らせないと身の安全を確保できないアメリカなどの文化圏の人だと、ごく普通の人の出てくる芝居というイメージとなる。

そして自分からは決して話しかけない習慣があるという英国の上流階級の人が主人公だと、この人はいきなり自分から話しかけて、少し馬鹿なのかということになり、それが客席に伝わるとこれから始まる芝居は喜劇なんだという解釈になることもあるという。
同じセリフを言っても、文化的背景が異なるとこれほどまでに解釈の幅も違ってくる訳である。

話は変わるが、いじめ問題を例に取り上げてみると。
そこでは通常、いじめている側に安易にいじめられている側の気持ちを理解せよと言っても伝わらないことが多いという。
そもそもその気持ちが本当に分かるのならいじめたりはしないはずで、ということはいじめる側が見ている景色というのはいじめられる側が見ている景色と違うということである。
そのような意識の違いをどう埋めて行くか。
そこにいじめ問題の解決の本当の難しさがあるという。
いじめる側にも腑に落ちるように腹の底から分かるようになる、いじめられる側の気持ち。
そこをどう伝えるか。
文化と文脈の違いを超える試みがここにもあるという訳である。

言わなくても分かるという言葉に象徴される、文脈の意識が高度に統一されて共有されている日本の文化。
その文化は、例えば移民中心の構成で、言わなければ分からないという文脈の意識の共有が極めて低いアメリカなどの文化とだいぶ違う。
が、平田さんはそのどちらがいいとか悪いとかいうのではないという。
どちらも素晴らしいのだと。
言わなくても分かる日本の文化、それはとても素晴らしいと。
ただ、国際的にそういう異なる価値観の文化が出会う時、その溝を埋めるため、戦略が必要となるという。
それがこれからの日本の課題だとも。
なるほどねえ。

また、韓国などでは靴を脱いで家に上がる時、日本風に靴をきちんと揃えて向きを直して置き換えると不快に思われるという。
韓国人の感覚では、そんなに早く帰りたいのかということになるらしい。
ああ、文化の違いって奥が深い。

講演会の最後は日本語の変遷について。
現在普通に使われている言文一致の日本語は、政治の話題から軽い雑談までこなせる言葉となっているが、このような言葉が成立したのは明治維新から約五十年ほどたった頃だったそうで、ここ百年くらいの伝統のものだという。
それまでの農業主体の経済から商工業中心の経済へ変わった明治維新、それを支える国民的言語の成立まで約五十年。
政治経済が変わってから、それを支える「言葉」が変わるまでそのくらいのタイムラグと努力が必要だったという訳である。

そして今、女性の社会進出が課題となっている時代。
長い日本語の歴史の中で、女性が男性の上に立って話す言葉の伝統と言えば、母親が自分の息子、男の子に話しかける言葉くらいしかなかったという。
そこで今後、女性が男性の上に立って使う言葉の生成が、新しい日本語の規範として長い時間をかけて進んで行くのではないかと平田さんは仰っていた。

他にも会話と対話の違いとか。
例えば、会話とは普通の何気ない何の価値観の違いも摺合せも必要のない話。
一方、対話とは違う文脈や背景を持つ者同士が価値観の違いを乗り越えて理解しあおうと努力する話。
日本語には会話はあっても対話の意識は極めて薄弱という。
なかなかに鋭い指摘である。

平田さんの話はとにかく実例が豊富で、奥の深い話ながら、分かりやすく聴くことができた。
今日は本当に来てよかった。
満足の半日でした。


最高の体験と最高の話を聞かせてくれた平田オリザさんに感謝。
その喜びをサポートしてくれた町民会館の関係者の皆さんに感謝。
今日もまた最後まで読んでくれたあなたにありがとう。

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