この度、ニコンがフルサイズミラーレス機の市場への投入を明らかにした。
これまでニコンはFマウントというレンズ形態を五十年以上の長きに渡って継続してきたメーカーである。
ライバルのキャノンが度々、マウント規格の変更を行ってきたのに対し、ニコンは五十年の長きに渡ってそれを行わずそれゆえユーザーの間では「不変のFマウント」として崇められてきた。
その不変のFマウントがこの度のミラーレス機の導入によって変更になるわけである。
もちろん、これまでのレンズもマウントアダプターを付けることによって使えるとのことであるが。
まあ、不変のFマウントといっても、新しいボディーに古いレンズを付けることは可能でも、逆に古いボディーに新しいレンズを付けることはできないという、いわば「片側不変」であることはよく言われてきたことだが。
それでもこんなにも長くレンズ規格が変わらなかったというのはある意味凄いことなのである。
新しいニコンのミラーレス機のマウントはZマウントというそうだ。
フルサイズミラーレスの先駆者であるソニーのαシリーズでは、その短いフランジバックの故に様々な時代の様々な古いレンズが使用可能であって、それが売りの一つでもあった。
実際、何年か前、カメラのキタムラでソニーの営業の人が来ていたことがあって、当時発売されたばかりのαシリーズを触らせてくれたのだが、その時その営業の人が言っていたのが、今現行のあらゆるモデルの中でこのカメラこそが一番色んなレンズがささる機種ですよということだった。
それまでの一眼レフカメラのフランジバックの長さはどこのメーカーでもかなり長くて特にニコンはあらゆる機種の中で一番長かった。
フランジバックが長いということはマウントアダプターを使用した他社製のオールドレンズ遊びは出来ないということでもある。
だから、ニコンユーザーはオールドレンズ遊びをするなら、基本ニコンレンズの中でそれをするしかなかったのである。
しかし時代は変わってミラーレスの時代になるとソニーなどのフランジバックの短いカメラが出てきて、それに合わせるように、オールドレンズ遊びも盛んになってきた。
当然、この流れは意識せざるを得ない現象だったのだろう。
従って、新しいニコンのZシリーズのフランジバックは16ミリとなっている。
もちろんこの短さはオールドレンズ遊びだけが目的でそうなったのではなくて、ミラーレス自体の構造上フランジバックは短くなければならない訳である。
それまでのFマウントのフランジバックが確か53ミリか52ミリかだったからだいぶ短くなったことがお分かり頂けるかと思う。
この短さなら、今、市場に出ているほとんどのレンズは使用可能なのではないか。
だけどこのことがニコン帝国のブランド戦略をゆるがす終わりの始まりにならなければいいがという心配は残る。
上にも述べたように、従来ニコンユーザーは基本的に自社のレンズしか使えなかった(サードパーティ社製のF
マウントのレンズもあるが)のでいわば、一種の囲い込まれた閉系の中におかれていたのだが、これによって自社ブランドのレンズという閉系から解き放たれてもっと広いレンズの海へと漕ぎ出して行くだろうからである。
また五十年以上続いた不変のFマウントというのは究極のブランド力をニコンにもたらしていた源泉の一つだと思うが、今回それを捨てることによってやはり大きなブランド力を喪失する事態となることは避けられないと思うのである。
実際、新しく出てきたフルサイズミラーレス一眼を見てもソニーのαシリーズをかなり意識した作りになっていることは明らかである。
そこで従来なら、他社との差別化において「不変のFマウント」を強調することもできたが、今はそのような差別化はできなくなっている。
すると皮肉なことに、他社との差異というのがどんどんなくなってきていると言うことで、これはブランド力の衰退ということでもある。
特にデジタル時代に入って、デジタル製品の加工技術というのはアナログ時代と違ってかなり真似しやすくなっているともいうし。
そこら辺りも意識したのだろう。
今回のフルサイズミラーレスの発売においてはニコンは画質重視の造りを全面に押し出した。
古くからカメラを専門にやっているメーカーの十八番とも言える分野である。
新しく発売になったZ7はなんと4500万画素越え、値段は30万以上。
レンズも50ミリF1.8で重さは500グラム以上、値段も8万円越えである。
話は変わるが、ちなみに筆者の撮っている写真(この写真回廊内のフォトギャラリーシリーズ)を見てもらうと分かる通り、高画素が必要ない作風である。
だから基本的に筆者には4500万画素は必要ない。
フォトギャラリーシリーズの作品は1080万画素のカメラで撮っている。
実用上それで十分なのだ。
それに、今使っているカメラはニコンのD7000で1600万画素、もう一つはフジフィルムのX-pro2で2400万画素だったか。
つまりそれでも一向に差支えないのだ。
だから今買うなら超絶高画素のZ7でなく2400万画素のZ6の方だろうなとは思う。
画素数が高いとそれに伴う弊害もあるらしく、昔ニコンからD800という高画素機が出ていたのだが、それを使っている人の意見を聞くと、余りにも高画素過ぎて普通に撮っているとちょっとしたことでカメラブレするというのである。
だからD800を使うのなら250分の1以上のシャッタースピードが不可欠なのだという話であった。
手持ちで被写界深度を深くとるスナップシューターにはなんだか恐ろしい話である。
まあ、新しいニコンのZシリーズのカメラボディには強力な手振れ補正が付いているという話だから大丈夫だとは思うが。
新しく発表されたレンズもニコンのことだから、実際使ってみると、この値段とこの重さでこの高画質という感動が絶対にあるはずなんだろうと睨んではいるが、とにかく軽い機材が好きな私のような人間にとって50ミリF1.8のスペックで500グラム越えというのは、ちょっと重いだろということになってしまう。
ちなみに今、持っている50ミリF1.8のレンズはたしか190グラムくらいである。
レンズもオートフォーカス化によって重さも鏡筒の太さも共に大きくなった。
これは昔のマニュアルフォーカスのレンズを使うとよく分かる。
とにかく鏡筒が細くて小さいサイズの中にレンズの性能がぎゅっと詰め込まれている感覚なのである。
以前、ネットの記事か何かでオートフォーカスレンズの中身を分解して見せているのがあったのだが、基本となるレンズ構成群の外側に何やらごてごてとそのレンズを動かすモーターやら配線やらが複雑に入り組んでいるのであった。
そのせいで鏡筒のサイズも太くなるのである。
筆者の撮るようなスタイルの写真ならマニュアルフォーカスでも何の問題もない。
あまり使う必要のないオートフォーカスのために無駄にレンズのサイズが大きくなるのならそっちの方がはるかに問題ではある。
ずっと動き続ける被写体を追いかける必要もないから、ピントはマニュアルで十分間に合う。
だから、できたらマニュアルフォーカスなんかで拵えた小粒でぴりりと辛いちょっと遊びっ気のあるレンズなんか作ってくれたら最高なのだが。
まあ、マニュアルフォーカスレンズの市場規模がどれだけあるか、メーカーさんとしてはそういう配慮も気になるところだろうから、あまり無理は言えないだろうが。
しかし、今のZシリーズのレンズのラインナップを見ていると巨大志向のややツァイス化した高画質化傾向が見て取れるように思う。
現行、ソニーなどとの差異を出すため必要な措置なのだろうが、スナップ屋のためにもライカ的な小さくてよく写るレンズというのも将来的には視野に入れておいてほしいような気がする。
せっかくミラーレスということでボディーも軽量化したのだから、レンズもそれに合わせて軽量化して欲しい。
最後に。
ニコンはこれまで続いてきたFマウントを改めてZマウントに自らの未来を託した。
その決断がどうなるかそれは誰にも分からない。
でも一ニコンファンとしては、最大限応援したいように思う。
私などが言うのも不遜だけど、ニコンファンみんなの力でこの新しい未来を支援してあげようではないか。
がんばれニコン。
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。