本日はピアノコンクール本選、観覧の報告です。
2018.3.24 土曜日、会場 サンポートホール高松大ホール、開場十二時半、開演十三時、一階指定席4000円、三階指定席2000円。
このコンクール、第一次審査から始まって第三次審査まであって、つまりそこまでが予選なのだが、そこを勝ち抜いた五人が今日の本選に出場している。
舞台の観覧は第一次審査から可能で、三月十四日から三月二十一日まで日を置きながら都合七日間、入場料を払えばいつでも見ることができる。
本選のチケットは高いのだが予選のチケットは安く購入できる。
第一次審査で1000円、第二次審査で1500円とか。
筆者が観るのは本選。
三階席を取った。
たしか前来た時も三階席で観たなあ。
八年前のことである。
このコンクールは四年に一度の開催。
昼は高松駅構内にある蕎麦屋、「そじ坊」で。
カレー南蛮蕎麦とかつ丼の組み合わせを。
美味かったなあ。
その後、散歩がてら高松の街をぶらぶらした後、十二時半会場入り。
なんと当日券は売り切れとか。
つまり満席ということ。
すごいね。
ロビーに入るとグッズ売り場なんかがあったりしてちょっとしたお祭り騒ぎである。
本選はオーケストラ付きの演奏でピアノ協奏曲を。
皆それぞれ違う曲をやるらしい。
指揮は大友直人さんで(スゴい!)オケは瀬戸フィル。
トップバッターはロシア出身の男性ピアニスト、ゲルマン・キトキンさん。曲はラフマニノフのピアノ協奏曲第二番。
コンクールなどでもよく弾かれる有名な曲です。
冒頭、ピアノのソロから入るのだが音に深みがある。
やはり男性ピアニストだけあって手が大きいのだろう。
会場内にガーンと響き渡る低音が実に素晴らしい。
第一楽章は中程に盛り上がりを見せる場面があるのだが、そこでも音はしっかり出ていた。
ただパックの瀬戸フィルもかなりいい音を出していたので、音のバランス的にピアノの音が吸収されてしまっていたのは残念だが。
なんせ音の一音一音の粒が硬くて、しっとりとした情緒が出てこない。
ここはやはりラフマニノフらしいねっとりとした絡みつくような妖気が欲しかったところである。
が、概して水準以上の演奏ではあるのだけれど。
バックの瀬戸フィルの演奏も素晴らしく特にラストは圧巻だった。
続いて、日本人の女性ピアニスト、伏木唯さん。
曲はサン・サーンスのピアノ協奏曲第五番。
やはりこういうところに個性って出るんですね。
とにかく、この伏木さん、鍵盤の上で指がコロコロとよく回る。
だからといって小手先だけの演奏で小ぢんまりとまとまっているかといえばそうでもない。
力量とそれを支える技量、それを受け止める音楽的な器の大きさがそれぞれいい具合に見合っているのだろう。
よく出来た日本酒やコーヒー豆のように、尖ったところがどこにもなく全体的にとても均整がとれている。
逆にいうと、もっと破綻が欲しいということにもなるのだが。
また最終楽章では、それまでのお行儀の良さから脱却して大爆発する場面も見せてくれていたし。
まあ、総じて言うなら隠れた実力者といったところか。
三人目はルーマニア出身の女性ピアニスト、アウレリア・ヴィソヴァンさん。
曲はベートーベンのピアノ協奏曲第五番「皇帝」。
使っているピアノは日本製のカワイとか。
それはさておき、この人の魅力は曲のハイライト部における踏込の強さ。
その迫力は一級品で、特に終楽章、曲が進むにつれ、曲の魔力に完全に引き込まれていく私がいた。
魔術的とも言える独特の瞬発力と強さに満ちた演奏。
ただ課題もあった。
その盛り上がりの部分に至るまでの平坦な場面での描写がそれである。
上手いピアニストというのは、同じ音を出しても色々なニュアンスや表情の違いを描きだすもの。
ところが、アウレリアさんの場合、その音の抽斗の数が極端に少ない感じと言うのか。
野球のピッチャーに例えて言うなら、球は速いがコントロールに難ありといったところか。
逆にいうと、磨けば光る玉ということなのかもしれない。
曲はリストのピアノ協奏曲第一番。
若いだけあって冒頭から外連味の強い演奏である。
最初のところは作為が勝ち過ぎたような演奏でちょっとやり過ぎの感もあったが。
まあしかしリストだとこのくらいのハッタリは必要悪ともいえるのだろうか。
しかしそれも曲が進むにつれ解消される。
余計な雑念が消え、曲の世界にどっぷりと浸りだしてからが素晴らしかった。
出場者はまだ後一人残っているので優勝できるかどうか確言はできないが、個人的には銀メダル以上は確定と見た。
とにかくすごい演奏で曲が終わった時、思わず立ち上がってブラボーと叫びそうになったくらい。
バックの瀬戸フィルも完璧な演奏で盛り立てていた。
曲はベートーベンのピアノ協奏曲第五番、「皇帝」。
本日二度目の「皇帝」である。
このピアニスト、秀逸。
とにかくゆったりとした構えから繰り出される音には超然とした気品が漂う。
それはまるで五月の爽やかな風のよう。
かと思えば、第二楽章では夢見る耽溺が程よくミックスされた得も言われぬ絶品の演奏を聞かせてくれる。
また終楽章では一抹の狂気も孕んだ、しかし絶妙の均衡に満ちた演奏が展開される。
しかし何なんだろうこの程よさ加減。
どんな激しい場面でも、どんな暗い場面でも、絶妙の均整が働いてとにかく後味がとてもいいのである。
誠に好対照である。
こりゃええ勝負だな。
優勝争いは事実上この二人の一騎打ちと見た。
あくまで素人の予想ですが。
結果発表は翌日、でその後表彰式と入賞者演奏会がある。
これも有料で見ることができる、1000円。
インターネットで結果を調べたら、一位は古海行子さんで二位はカンテ・キムさんだった。
でもそれはさておきおめでとうございます。
しかし聞きごたえのある半日でした。
でも、オーケストラは大変だな。
一日の内に協奏曲五曲、それも練習じゃなしに本番で。
それでも、いい音出てましたよ。
安全運行に務めてくれたJRの皆さんに感謝。
最高の演奏を聞かせてくれた本選出場者の五人のピアニストに感謝。
それを支えてくれたオーケストラ、瀬戸フィルと指揮の大友さんに感謝。
円滑な舞台進行を保証してくれた関係者の皆さん、ホールの皆さんに感謝。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。