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Channel: 文芸 多度津 弘濱書院
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写真展 「志賀理江子 ブラインドデート」

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本日は写真展観覧の報告です。

イメージ 1

2017.8.20、日曜日、写真展「志賀理江子 ブラインドデート」、会場 丸亀猪熊弦一郎現代美術館、会期 2017.6.10(土)から9.03(日)まで、会期中無休、開館時間 十時から十八時まで、入館は十七時三十分まで、料金 大人一人950円。

それではここで、今回の写真展の主、志賀さんについて簡単に紹介。
1980年愛知県生まれ。
1999-2004年、ロンドン芸術大学チェルシーカレッジオブアートアンドデザイン。
2007-2008年、文化庁在外派遣研修(ロンドン)。
2008年、木村伊兵衛写真賞受賞。
現在、宮城県在住。

この日(8.20)は丸亀バサラ祭りの真っ最中。
そのため美術館の前にある広場が、ちょうど踊りを披露するための会場となっている。
従って美術館の中は音がやかましいとのこと。
そのためか、この日の観覧は無料となっていた。
実際、中に入ってみると外の音はほとんど気にならない。
全く聞こえない訳でもないが、鑑賞の邪魔になるほどやかましくもない。
しかし、そのおかげで思いがけず、この展覧会をタダで見ることができた。
感謝、感謝。

イメージ 2そして展覧会。
まず中に入るとその会場の暗さに驚く。
それもそのはず、映写機を使って写真のスライドショーをやっているからだ。
ということは写真はポジフィルムで撮られたものなのだろうか。
それともデジタルで撮って後々加工したものか。

それはともかく、会場の半分はこのスライドショーの展示となっていた。
置かれている映写機は全部で十台ほどだっただろうか。
その映写機には小さいのと大きいのとがある。
各映写機ごとに主題が決まっているらしく、同じ機械からは同じような写真が提示されている。

入場前に渡された展覧会のパンフレットがかなり凝ったつくりのものだったので、勝手に今流行りのカッコいい系の写真家なのかと想像していたのだが、実際の写真を見てみると必ずしもそうではないと言うことが分かってくる。
例えば、カッコいいだけが取り柄の写真家なら意図的に落として行きそうな現実の醜い部分もちゃんと目をそらすことなくしっかりと描写している。

イメージ 3作品全体の印象としては、一枚で完結的に何かを語ろうというのではなくて、ある程度の数がまとまった連作の力によって一つの主題を明確に醸しだしてゆくという感じの作品群である。
誠に寓意に満ちた作品達である。

ちなみに、小さい映写機で投影される写真はかなり画面に近づいてみないと細部が分からないのだが、それがまた面白い。

寓喩を巧みに使った写真ということで、そこには当然、演出したと思われる作品も多くある。
でもその演出が上手くて的を得ているから、ちゃんと言いたいことが伝わるようなそんな作品群となっている訳である。

例えば、裸の男性がまるで捨てられたマネキンかなにかのように、道端に重なり合って倒れている写真。
一方、別の映写機では、蓮の葉のような植物がびっしりと繁殖したようなかなり大きな風呂のような場所に後ろ姿で入浴するおばさんの写真。
また別の映写機では、地面にあいたクレーターのような穴の中に火をたいて、そこに人が下りて行っている写真とか。
或いは、偽卒業写真風の学校の体育館と思しき場所で撮られた写真が虚実ないまぜとなって、同じ構図のまま違う顔が様々に入れ替わる写真とか。

イメージ 4とにかく、なにかしら見る者に「物語」を発見さすような仕掛けに満ちた写真群である。
しかし、その写真たちの語り出す物語はたった一つの物語を押し付けてくるのではなく、見る側の解釈によっていかようにも変化する自在さを併せ持っている。
ここら辺りがこの人の真骨頂なのかなと。

そして映写機ではないちゃんとプリントされた写真が会場のあと半分を埋めている。
こちらの写真は、志賀さんがタイのバンコクに行った時、移動手段として乗った二人乗りバイクで、同じように二人でバイクに乗っている無数の現地の人々と悉く目が合ったそうで、それを不思議な縁と感じた志賀さんが改めて、その不思議な感触を再現して撮ったものという。

イメージ 5どれもバイクにまたがった二人乗りの写真で男女のカップルが多い。
撮影にあたっては笑顔をあえて避けて撮ったという。
志賀さんによると笑顔はその人の本当の表情を隠してしまうものだから、と。

背景は暗く落ちているか、さもなくば単調なものがほとんどで、従って、それを見る者はまるで暗闇の中であてもなくさまよう虚しい逢瀬を重ねているかのよう。
それはおそらく私達の人生の比喩でもあるのだろう。
なるほど、ブラインドデートとはそういうことだったのか。

イメージ 6と一人合点していたら、ブラインドデートとはそれだけの意味ではないらしいことが・・・。
実際、志賀さんは再び訪れたバンコクで、本当に「盲目」のあるカップルと出会っていたのである。

その盲目のカップルの発した言葉が私には面白かった。
「私の目が見えないのは前世の因縁でしょうかと、私はその意味が知りたくて世界中の様々な宗教を研究しました。
しかしどの宗教も私を完全に納得させ満足させてくれるものはありませんでした。」

イメージ 7ううむ。
重い言葉である。
あの宗教もこの宗教も結局はこの人達の力にはなれなかったのだ。
私も含めて伝統宗教に携わる人間には改めて肝に銘じて置かなければならない、鋭い問いかけである。
私もこのブログなどを通じて、及ばずながら密教や神道の素晴らしさを伝えてきたつもりだが、まだまだなのだなと思い知らされた。
世の中にはまだまだこういう人がたくさんいるのだ。
そして、そのような人達に対する明確な答え、いやそれは無理としてもそのような人達を満足させられるだけの「問いの立て方」を私達は持っているだろうか。

ブラインドデートを巡って随分と大変な地平までたどり着いてしまった。
しかし、それだけの深みを持った展覧会であるということなのだろう。

イメージ 8写真は会場での照明の当て方のせいか、元々の写真のせいか、周辺光量の低下の目立つ写真が多かった。
しかしこれはもちろん、味であって、展覧会の主題との兼ね合いにおいても誠に理にかなった表現となっている訳である。

あと、展示スペースの裏の通路の壁に、志賀さんの書かれた随筆が直接掲載されていたのだが、これもなかなかしっかりした文章であった。
時間の関係上、全部は読めなかったのだが、社会や自分自身の立ち位置についての正確でありながら、一方では何が正解かを巡って迷っている自分自身もあえて隠さない正直さとが相まったすばらしい文章だった。
映像だけじゃない、「言葉の人」でもあるのだなと思った。

色んなことを感じ色んなことを考えた一時間半、大満足でした。


最高の写真を見せてくれた志賀理江子さんに感謝。
その写真を私達に媒介してくれた猪熊美術館の皆さんに感謝。
並びに展覧会関係者の皆さんに感謝。
今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。

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