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コンサート 「オーケストラで奏でる心に響く名曲」

本日はコンサート評です。

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2017.1.21、土曜日、「オーケストラで奏でる心に響く懐かしき名曲」、スペシャルゲストに秋川雅文さん、多度津町民会館、十八時開場、十八時半開演、全席指定、一般2000円。
指揮、家田厚志、演奏、東京オーケストラMIRAI。

オーケストラが付いて、その上に秋川さんが特別ゲストでこの値段というのはいかにも安い。
それもそのはず。
この公演は宝くじの助成が付いた文化公演なのだ。
宝くじが支援するコンサートというのは他でもよく見かけるが、どれも値段の割に中身が充実しているのが特徴。
つまりお得な公演ということ。

この日、筆者は昼間、仕事だったので急いで帰宅して風呂にも入らずに会場に駆け付けた。
家で早目の夕食を慌ててかきこんで。
十八時過ぎ、会場に入る。
中に入るとすでに一杯の人だかり。

席はほぼ埋まっている模様。
一部、当日券も売られていたようだが、どんな席が売られていたのだろうか。
二階席にも人が入っている。
そちらの方もほぼ満席の様相。
後でコンサートの中で秋川さんが言っていたのだが、この日は満席完売になったそう。
すごい。

ちなこに筆者の席は真ん中後ろの左寄り。
全体がゆったりと見渡せるいい席だ。
ここは会場がそんなに広くないのでどこに座っても割にいい思いができる。
なんともありがたいことで。

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十八時半、定刻通りコンサート開始。
オケはいわゆるフル編成のやつではなく、中くらいの規模のオケ。
全部で三十人くらいの規模か。
となると、音の薄さが気になるところではあるが、果たしてどうか。

最初の演奏はモーツアルトのオペラ「フィガロの結婚」序曲。
演奏会の初めにやるには打ってつけの曲。
管楽器も必要最低限のメンバーしかいないのが気がかりだったが、蓋を開けてみれば音はしっかりと鳴っていた。
まずは名刺代わりの一曲。
しっかりと受け取りました。
華やかさに溢れた名曲で、最後の部分の盛り上がりは凄かった。

続いてもモーツアルトで、今度は「交響曲第四十番 第一楽章」。
小林秀雄先生の著名な評論の一節、「疾走する悲しみ」で有名なこの曲。
筆者も昔、学生時代によく聴いたなあ。
今日はそれ以来、久しぶりに聴く。
でもやっぱり生はいい。

今回、聞いてみて新たな発見となったのが、曲中盤に出てくる対位法のところ。
モーツアルトと言えば、和声のイメージがあるが、こんな風に対位法を華麗に使いこなしていたんだなというのは改めて聞いてみての感慨。
極めて聞きごたえのあるモーツアルトだった。

続く「美しき青きドナウ」では、ウィーンのニューイヤーコンサートの残り香が感ぜられるような名演が。
古都ウィーンの高貴な香りが漂ってくるよう。
ちなみに筆者はウィーンフィルのニューイヤーコンサート、毎年元旦の夜、酒を飲みながら聞いている。
なんだか一杯欲しくなってきたな。
そんな演奏。

そして次のロッシーニ、歌劇「ウィリアム・テル序曲」、スイス軍の行進、でオケは爆発する。
競馬なんかの場面でよく使われる曲。
みなさんも必ず一度は聞いたことがあると思う。
しかしこの演奏が凄かった。
完璧なリズムを軸に、全体としての音の踏込は圧巻で、速いテンポで一気に演奏の高みへと聴衆を誘う。
これを聞けただけで今日、ここに来た甲斐があったと思える、そんな演奏。
理屈を越えた魂の演奏だった。

その後、さっきの熱演の余韻の中で口直し的な感のある、ディズニー音楽みたいな感じのしっとりとしたオペラの間奏曲を挟んで、最後はチャイコフスキーのワルツで〆る。

今日の前半のプログラムはクラシック音楽のつまみ食い的ないいとこ取りのプログラムだったのだがこれはこれで楽しめた。
年を取るとこらえ性がなくなるので、ゆったりと構えてお気に入りのフレーズが出てくるまでじっと我慢する通常の演奏、それはそれでいいのだが時には待つのに疲れることもある、それに比べるといきなり美味しいところがガーンと出てくる今回のような形式の演奏会というのもアリだなと思った。
クラシック音楽の聞き方としては邪道だと言う意見も一方ではあるだろうが。
あと指揮者の人が曲の合間にトークを挟むのも、必ずしもクラシック音楽に詳しくないであろう初心者の観衆にはありがたい工夫の一つだと思った。

休憩の後、後半へ。

後半はこのオケをバックに秋川さんの歌が展開する。
まずは映画音楽の「慕情」。
これが凄かった。
圧倒的な声量でオケの熱演と相まって至上の音楽が奏でられる。
ジャンルは違うが、大滝詠一さんの伝説の福生スタジオでの黄金のサウンドもかくやというくらいの音。

しかし、いきなり初手からこの歌声とは凄すぎる。
その集中力の高さたるや半端ない。
当然、会場からはブラボーの嵐が巻き起こっていた。
でもこれ、まだ一曲目なんですよ。

続いて日本の歌。
秋川さんの解説によると、日本の歌というのは、一つの音符に一つの音(あ、とか、さ、とか、か、とか)しか乗せられないのが特徴であり、それがまた逆に言うと弱点でもあるそうで、そのせいで日本の歌と言うのは一般的にリズムが取りにくいのだという。
つまり一つの音符に一つの音だから、全体としてのっぺりとした平板な印象の音になるそうだ。
道理で歌舞伎の長唄やお能の地謡など、一音一音の躍動的なリズムがすっかり消え失せた上に長くのっぺりとした印象の日本独特の音楽世界が形成されているわけである。

しかし、それも悪いことばかりではなく、逆に言うと日本の歌には他の国の歌にはない荘厳さが加わるのだという。
お経なんかを節を付けて歌うとかなり荘厳に聞こえる、あんな感じですね。
そんな秋川さんが歌う「荒城の月」。
沁みるねえ。

そしてさぶちゃんこと北島三郎さんの「まつり」で大盛り上がりした後、最後の曲へと。
最後を〆るのは、秋川さんと言えばこの曲。
「千の風になって」。

やっぱりいい曲だな。
なんと言っても歌詞がいい。
真言密教の一番深いところを暗示しているような歌詞。
生と死の秘密を余すところなく描ききっている。
これを散文で論ずれば本一冊分くらいになるところを、やっぱり詩というのはすごいな、わずか三分足らずの間で十全にそれを表現してしまう。

そしてアンコールは「翼をください」。
これも凄い演奏&歌唱だったんだよな。
曲自体の良さもさることながら、アレンジの力で最後を〆るにふさわしい大曲となっていた。
まあ、凄いです。
みなさんも機会があれば是非一度、生で聞いてみて下さい。
舞台から客席に向かってあふれ出てくるものが凄いんですよ。
あの感じというのは生でないと分からないと思う。

充実の二時間。
秋川さんはトークも面白くて、そちらの方も十分楽しめた。
今日は来てよかった。
ありがとう。


最高の演奏を聞かせてくれた、指揮の家田さん、オケの東京MIRAIさん、そして秋川さんに感謝。
その演奏を裏で支えてくれていた多度津町民会館のみなさんに感謝。
そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。

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