明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
新年一発目の本日は美術鑑賞記から。
2019.1.3 木曜日、香川県立ミュージアム、会期 平成三十一年一月二日 水曜日から一月二十日 日曜日まで。
開館時間、朝九時から夕方五時まで、金曜日のみ夜七時半まで、入館は閉館の三十分前まで。
入場料一般610円。
八時十分の電車。
坂出でマリンライナーに乗り換えて高松には八時五十分に着く。
高松駅からは歩いて県立ミュージアムまで。
例の如く、玉藻公園が正月三が日の特別無料開放を行っていたので中を通って行く。
早朝の凛とした冷たい空気がお城の荘厳な雰囲気とよく合っている。
青々とした松に丈の低い寒椿、いや山茶花か。
朝からいいものを見させてもらったな。
おかげですっかりいい気分。
そして伝統工芸展。
今年は大賞に金工作品が選ばれている。
これは中々珍しいことだ。
入ってすぐの所に大きく飾られている。
派手なところはないものの、地味シブの極致といった小味の効いた文様と精緻な仕上げが印象的な作品。
なるほど大賞の風格十分である。
今回は漆芸から特賞に三つの作品が入っているのだが、どれも素晴らしい出来栄え。
「乾漆螺鈿天牛箱」 しんたにひとみ 奈良県。
まず形態の曲線の美しさ。
そして地の黒の深さと輝き。
そこに絡んでくる古典の文様、それらの要素が混然一体となって全体の調和が上手く図られている。
秀作。
「切金螺鈿箱 青麦」 金城一国斉 広島県。
初夏を思わす麦の描写のなんと爽やかなこと。
鮮やかな生命力にあふれた逸品。
全体的に見て、今年の漆芸は鑑査委員や特待者組の作品がとりわけ充実していたように思う。
また、漆芸王国香川が誇る三人の重文の重鎮による作品もそれぞれに見事だった。
黒を背景にほんのりと浮かび上がる渋い文様。
その色合いと明暗加減の絶妙さが光る。
さすがです。
「兎文蒔絵箱」 中野孝一 石川県 鑑査委員 重要無形文化財保持者。
漆芸王国石川県勢の作品。
独特の深い黒に金で描写された兎の愛らしいこと。
兎の上には同じく金で月も描かれている。
独特の形態感覚で描かれた兎は動きの要素も加味されて素晴らしい出来栄え。
「乾漆盛器 風の跡」 村谷聡志 石川県。
金襴豪華な秋の銀杏絵巻。
これぞ漆芸の華。
「蒟醬箱 水の音」 北岡道代 香川県。
暗い水面を描写する暗い緑の色調が絶品。
実物を見るとその沈んだ色調が絶妙で思わず魅了されてしまう。
ずっと見ていたくなるようなそんな作品。
「籃胎存清短冊箱 少年の夏」 辻孝史 香川県。
これも水にまつわる作品。
が、こちらは爽やかな印象の作品で、さらさらとした水面に軽やかなトンボが一匹。
水とトンボの位置の加減が絶妙。
色味は全体に爽やかで曰く言い難い味わい。
他に印象に残った作品を二つ。
「存清盒 ゆらぐ」 高橋香葉 島根県。
暗い黒の中から赤紫の具象が顔を出すか出さぬかの微妙。
面白い。
黒一色の卓。
その横長の形態の上に微かな凹凸だけで波のざわめきを表現している。
その微かな凹凸が場内の照明に照らされて浮かび上がったり、また消えたりと、見ていて飽きない面白さ。
中々の趣向と出来栄えだと思った。
続いて陶芸。
陶芸は今年は少し展示点数が少な目な気がした。
その代わり今年は着物の展示が例年より多かった。
そのせいだろう、いつもならガラス越しにしかみることのできない陶芸の大先生達の作品が今回は生で見ることができる。
そういう意味では得した気分。
しかし生で見る柿右衛門や今右衛門の素晴らしさよ。
「灰被絵皿」 坂倉新兵衛 山口県。
渋いなあ。
まるで唐津のような薄茶色の微かに濁った背景に控えめに花の文様があしらわれている。
これみよがしでない一歩引いた美しさ。
やや青みがかった純白地の上に青一色で描かれた金魚が一匹、ゆうゆうと泳いでいる。
やや外連味もある豪華な形態の金魚があっさりと軽やかに描かれているのがとてもいい。
「淡桜釉裏銀彩葉文鉢」 中田一於 石川県 鑑査委員。
主題の桜と背景の淡いピンクとも赤紫ともつかぬ独特の色合い。
表面の仕上げも美しい。
「鉄釉葡萄文壺」 原清 埼玉県 審査委員 重要無形文化財保持者。
押さえたトーンの、しかしざらついた黒を背景にほのかに浮かびあがる葡萄の文様。
これも渋いんだ。
さすが重鎮の作品。
続いて着物。
生で見るととてもきれい。
で若い女性でも喜びそうな可愛らしさもある、すぐれた作品。
「友禅訪問着 雨上がり」 菅原高幸 岩手県。
秀作。
淡い色彩で朝の林の風景が余すところなく描かれている。
とにかく美しくて艶やか。
あっぱれ。
「半紗織着物 辛夷連なる」 山下郁子 富山県 鑑査委員。
爽やかさと清潔さ。
夏用の紗の着物独特の透けて見える織の美しさ。
そして色合いの妙。
全てが完璧に調和している。
金工。
「鍛朧銀鉢」 田口壽恒 東京都 重要無形文化財保持者。
何でもないただの丸い鉢のように見えるのだが、なぜか見る者の心を捉えて離さない。
形なのか色なのか。
全てが絶妙微妙で、何もない中に広がる無限の愉しみを感じさせてくれる。
「黒柿蘇芳染嵌荘箱 西方の風」 渡辺晃男 東京都。
小さいがよく出来ている。
写真だともう一つよく分からないのだが、生で見ると色がとてもきれいで落ち着いた感じのちょっと明るい茶色が印象的。
見ていてほっとする。
文様も上品で全体の印象を少しも壊さない。
「黒柿造鉢」 川北浩彦 石川県 鑑査委員。
なんでもない鉢だが、木目の美しさが秀逸。
軽めの仕上げも絶妙で作者の高い美意識がうかがわれる。
全体に木工は漆芸と違って装飾より形態の美、足し算ではなくて引き算の美であるのが特徴。
この作品もまさにそれ。
人形。
「木芯桐塑胡粉 雲錦」 藤田美智子 大阪府。
よくできた作品。
このような柔らかで完璧な造形に至るまで一体どれほどの修練を必要としたことだろう。
すばらしいの一語である。
諸工芸。
「截金硝子花器 水鏡」 山本茜 京都府。
透明なガラスのしっかりとした器に青と緑が透けて見える。
そしてそこに施された金色の細い装飾。
見ていて飽きない。
以上、駆け足で見てきた展覧会だが、今年も例年に違わず極めてレベルの高い展示内容だったと思う。
新年一発目にふさわしい重厚な内容の展覧会であった。
安全運行に務めてくれたJRの皆さんに感謝。
素晴らしい展示を見せてくれた伝統工芸展の作家さん達に感謝。
その作品を私達に仲介してくれた県立ミュージアムの皆さんに感謝。
全国巡回の伝統工芸展にありがとう。
今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。