本日は紀行です。
筆者愛読の雑誌「致知」。
なんと来年で創刊四十周年を迎えるという。
私はこの雑誌、天国に一番近い雑誌だと勝手に思い込んでいる。
と言うのも、世の中の構造として、まず一番上に天上の世界があり、その下に我々が住む天より下の世界があるわけで。
例えば、よく天下人などといって、その人がありとあらゆる世の中で一番偉いかのように言われることがあるが、それは間違いで、実際にはまだその上に天上の世界があるのである。
天下人とはあくまで、「天より下の」現世でランク一位というだけなのである。
そんな、地上からは容易にうかがい知ることのできない天上の世界を反映した痕跡とでもいうべきものがこの世にもどこかにあるはずだと長らく私はその世界を見たいと懸命に探してきた。
その捜索の果てに偶然見つかったのがこの雑誌である。
この世のどこかには、天の命を受けて、その意を体現した優秀な人達が集まる場が必ずある。
そう信じてきた私が出会ったのがこの雑誌。
見つけた時はほんと嬉しかったなあ。
その雑誌の読者会が京都であると聞いてすぐに申し込んだ。
今年の六月頃のことである。
会場は、ホテルオークラ京都、ゲスト講師にシンクロ女子日本代表コーチの井村雅代氏、そして致知出版社社長の藤尾秀昭先生の講義もある。
そしてその二つの講演が終わった後、出席者全員によるパーティが催される。
七時四分発の特急に乗り込んで一路京都へ。
九時前に新大阪。
そこから在来線で京都へと向かう。
京都まで直接新幹線で乗り付けるより、阪神フリー切符を買って、新大阪から京都を目指した方が料金がはるかに安いのでそうした。
京都駅には九時三十分頃に着いた。
京都駅から地下鉄で京都市役所駅へと。
なんとそこから会場のホテルオークラ京都へは地下で直接繋がっている。
なんとなく、VIP気分である。
造りが違いますわ。
なんといっても重厚感がある。
今夜はここに泊まる。
宿泊料、高かったけど、思い切って清水の舞台から飛び降りました。
こういう機会でもなければ泊まれないですもんね。
その後、チェックインはまだ出来ないとのことだったので、荷物だけ預けて、講演会が始まるまで街を散策することに。
ワンプレートの盛り込みランチで、ハンバーグとクリームコロッケが付いていた。
どちらも美味だった。
その後、再びホテルへと戻り、四階にある会場へと向かう。
十三時二十分、定刻通り開始。
まず最初は、シンクロ女子日本代表監督、井村雅代さんの講義から。
去年のリオオリンピックの環境は相当ひどかったようで、まずはその話から入る。
極め付きはシンクロで使うプールの汚さで、余りにも汚いためプールの中の視界が極端に悪く往生したそう。
通常、シンクロは水の中で、プールの水際や位置を目で確かめて技を合わせて行くそうだが、水が余りに汚いためそれが出来なかったという。
しかもそのプールの水、腐ってもいたので、途中から入れ替えたそうだが。
しかし、そんな時でもリーダーたる者は小言一つ言ってはいけないという。
どんな時でも目の前の現実を受け入れ、前を向いていないとだめなのだ。
が、その間に弱体化した日本女子シンクロ界を立て直すため再び日本へと戻ってくる。
しかし、先生、久々に教える日本選手団の質の低さに驚嘆したという。
何でも横並びの意識が先行してまるで向上心がないのだと。
だから先生の話がまるで通じなかったのだそうだ。
勝ちにこだわる独特の指導の在り方が。
しかし、日本ではこれが普通なんじゃないかと私などは思う。
どの指導者も多かれ少なかれ、そのような日本人独特の閉鎖的で横並びの価値観を崩して、勝利を求める心を呼び覚ますのに必死になっている現実があると思う。
思えば、先生は指導者としては恵まれていたのだろう。
なんでも、かつては打てば響くような優秀な生徒に囲まれていたそうだから。
でも日本では、そういう恵まれた環境にある人の方が圧倒的に数が少ない。
多くの指導者は、集団主義的で個の突出を嫌う、日本的な集団を前に初期の情熱をなくして沈んで行くのが普通である。
或いは上手く折り合いを付けたりしながら。
しかし、そんな中でも妥協せず結果を出した井村監督の手腕というのはやはり凄いと思う。
事実、話の通じない選手達と色々接点を探りながらの難しい指導が続いたという。
しかし選手の間には、まあ、大体この辺りでいいや的な諦めの良さが際立っていた。
その中で、感じられたこととして、この選手達が力を発揮できないのは、とことんまで追い込まれたことがないことと、その先にある勝利の喜びを味わったことがないことの二つにあることが分かってきたという。
例えば、井村先生はこんなことも仰られていた。
プレッシャーを感じることで、かえって自分の日常以上のものが出ないことを知るという。
これなどは、ほどほど教の仏教の教えとも重なる認識と言えるだろう。
なんでも普通、水着とは薄くすると身体が透けて見えるようになるので通常は袷で作ってあるそうだが、それだと重くなるというので、透けて見えない薄い水着を単衣で作ってもらったとか。
そこで日本の優秀なものづくりの技術と開発力が発揮されたという。
更には水着の色にもこだわりが。
体の小さい日本人を印象的に見せるため、リオの太陽に負けないようなきれいな発色に拘ったそう。
音楽も、日本を意識させるような音で最後に手拍子がもらえるような構成にしたとか。
随所に盛り込まれる勝利への計算と執着に圧倒された一時間半だった。
雑誌の編集を通じて各界の一流人と触れ合ってきた経験から、一流の人達に共通の法則を教えてくれる。
その法則とは。
幾つになっても学び続ける。
そして学んで得たことを教え続けることに倦むことがない。
最後に幾つになっても感動する心を忘れない。
感動と言うことに関して言えば、少し話は変わるのだが、一般に今の若者には感動する力がないということがよく言われる。
しかし藤尾社長によればそれは事実とは異なるという。
しかし、現在の教育の在り方が充分にその気持ちに応えられていないだけなのだと。
確かに、地上の生物などを見ても、春から夏にかけて「熱」の下で栄える生物の方が寒い時に活躍する生物より数が多いことに気付く。
「熱」とは生命を育む源のようなものかもしれない。
人間だとその熱は物理的な熱もさることながら、心に響く「熱」も青少年を育むのに必要不可欠なものなのだろう。
筆者の見るところ、ああいう団体に引き込まれる若者と言うのは、その主張の正しきか否かによって引き込まれるよりも、むしろそこから発せられるあの独特の「熱気」にしてやられているのではないかと思うのである。
イスラム過激派の主張にさして見るべきものがないように思われながらも、しかしあそこには確かに「熱」だけはしっかりとあることを我々は認めねばならないだろう。
そこが、往々にして左翼的で冷たい学校教育との差異なのではないか。
であるならば、我々伝統宗教の側も、今はすっかり失われて久しい「熱」を取り戻す必要があるのではないか。
今こそ、思想のルネサンス、過激派に奪われた失地回復とでもいうべき、新しい情熱に導かれたレコンキスタが必要なのではないだろうか。
藤尾社長、本当に色々な話をされておられたのだが、印象に残った話を一つ紹介すると、どんな組織でも、ナンバーワンとナンバーツーの息がぴったり合っていないと繁栄は望めないという話。
これは家庭でもそうで、家長と奥さんの息があってないと子供は道を逸れるという。
この場合、夫と妻のどちらがナンバーワンかというのが実に悩ましいところなのだが、藤尾社長もその辺りを巡って会場の笑いを取っておられた。
また、噴という名の熱い情熱の発露の大事さとそれに感じ入る心の大切さについても熱弁されていた。
人間にはすべからくその双方が必要だとも。
そんなこんなで、あっという間の一時間半。
そして一時間弱の休憩後、お楽しみのパーティー。
会場に入ると大きくしつらえられた、ビュッフェ形式の食卓に圧倒される。
食卓の配置は会場の中の半分くらいを占めていて、これだと千人の来場者が一斉に食事を取り始めても大丈夫と言った十分な広さ。
先般亡くなられた渡部昇一先生に代わり、今号から新しく連載を受け持つことになられた中西輝政先生。
毎号、文学に基づいた深い知見から人生をやさしく語っておられる鈴木秀子先生などから乾杯の挨拶が。
どちらも好きな先生だったので感激した。
私は一般に保守の論者というと、その主張が偏り過ぎていてあまり好きではないことが多かったのだが、中西輝政先生と言うのは保守でありながら、知性のバランスが絶妙であると感じている。
過激なだけではない慎重でまっとうな主張というのがあってとても好きな論者なのだ。
だからとても大好きな先生。
パーティーは立食形式。
お酒も出る。
京都市長のあいさつなどもあって会は盛り上がる。
皆、致知を通して繋がっている仲間だ。
筆者も一杯入った勢いで何人かの読者の方とお話させてもらった。
また、致知出版社の編集の方も会場を歩いておられたので声をかけて話をさせてもらった。
誠に楽しいひとときであった。
ベルガールが部屋まで荷物を持って案内してくれる。
高級ホテルならではの手厚いサービスだ。
部屋に入ってびっくりしたのはベッドの広さ。
ダブルベッド。
風呂も大きい。
そして部屋は清潔。
ペットボトルの水が一本、無料で付いている。
フレンチトーストの朝食を頼んでおいた。
飲み物は珈琲と紅茶を選べる。
筆者は紅茶に。
フレンチトーストは出てくるまでけっこう時間がかかった。
注文してから焼いているのだろうか。
期待が高まる。
出てきてからまずは一口。
ぷるんとした独特の食感。
バターと蜜をたっぷりと使ってあるから、けっこう腹にズシリと来るのである。
紅茶は大ぶりのティーポットでのサービス。
他にフルーツの盛り合わせも付いていた。
ちょっと贅沢ないい朝だ。
ああ、しかし幸せだなあ。
志を同じくする同士たちと出会えて、美味しいものも食べられて旨い酒を飲んで。
感謝、感謝、感謝。
また再び、どこかで会いましょう。
同じく京都地下鉄の皆さんにも感謝。
美味しい食事を提供してくれたリプトンレストランに感謝。
最高のひとときを演出してくれた致知出版社の皆さんに感謝。
講師の井村雅代さん、藤尾秀昭さんに感謝。
その最高のひとときを完璧なものにしてくれたホテルオークラ京都の皆さんに感謝。
そしてこの旅で出会った皆さんに感謝。
今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。